こころの森 Home

くりん様 小説

小さな窓




それがあるのが当たり前だと思っていた時は気がつかなかった。
1つ1つ、大切なものが私の手から落ちていく。
胸が苦しくなるくらい走り回った。
お腹が痛くなるくらい笑いあった。
雲一つない青い空も、立ちこめる草の香りも、温かな日の光も、全て私のものだった。
どこまでも広がる世界を自由に駆け巡る。
それが当たり前だった。
その時はそれがどれほど大切なものかなんて、わからなかった。

やがて、それはゆっくりと、確実に、1つ1つ奪われていった。
でも今まで見えなかったものを手に入れた。
同じ窓から見える景色でも毎日違う顔を見せてくれることを知った。
青空に浮かぶ雲が何処へ行くのか想像し、楽しさと切なさを知った。
窓から入りこんでくる風の優しさを知った。
窓から射しこむ日向の柔らかさを知った。
あなたの言葉が私を元気にしてくれる。
あなたの笑顔が私に勇気をくれる。
過ぎていく時間の愛しさと残酷さを知った。

やがて、大きな窓が奪われ、小さな窓を手に入れた。
今までより小さくなった青空。
でも、遠くで鳥が元気に飛んでいくのが見えた。
自由に恋焦がれることを知った。
今ある自由の大切さを知った。
あなたの手の温かさを知った。
あなたの声を求める自分を知った。

やがて小さな窓も閉じられ、作り物の光が満ちた狭い世界を手に入れた。
あなたが私に持たせてくれた小さな花が、とても綺麗なことを知った。
あなたが聞かせてくれるお話で、私はほんの少しだけ幸せな日常の仲間入りができた。
あなたが私の全てになったことを知った。

やがて、この世界も私の手から零れ落ちる日が来るだろう。
その時、私の心にあなたの笑顔が残るだろう。
目を閉じればあなたの声が聞こえるだろう。
あなたのぬくもりが残るだろう。
私の手に何も残らなくなった時。
今度は私が贈りたい。
あなたの心に私の笑顔を。
あなたの心に私の声を。
あなたが私に贈ってくれた優しさに負けないくらいの想いを…。
私にできる精一杯の想い。
……たくさんの幸せをくれたあなたに。

  おわり

くりん様のサイトのキリ番を踏んで、書き下ろしていただいた小説です。
くりん様、ありがとうございます。

Copyright(C)2016 こころの森 All rights reserved.